さよせか第5回1

 黄金宮の爆発が起きた部屋は壁が四方八方に吹き飛び、屋根すらない有様だったが、魔法で身を守ったアンビーは気にもせずに自身の願いを叶えようと、ひび割れた玉の中にいるユーフェリアの元へ近づこうとしていた。

 アンビーと同じく魔法で身を守ったエルジュは焦る気持ちを抑え、玉を叩き割りながら、ユーフェリが出るのを手伝う。

 アンビーがイライラと、炎の玉を右手で操りながら、

「エルジュちゃん、ちょっと邪魔なんだけど?」

「アンビー様、考え直した方がいいんじゃ……」

 エルジュは炎の玉の赤さに背筋を凍らせながら、やっとの思いで声を絞り出した。

 邪魔者ならば、紙くずが如く平気で燃やせる人非人を相手にする恐怖が勝って息苦しい。

 ユーフェリアが玉から出たタイミングで、アンビーはキャッチボールでもするような感覚で、炎を投げつけた。

 代償を引き受けるユーフェリアも危ないが、アンビーとしてはユーフェリアがギリギリ生きていればいいのである。

 エルジュたちに近づく炎は宙を走りながら、大きくなり、放射熱が皮膚をチリチリと痛めた。

「エルジュ!」

 ユーフェリアの鋭い声で我に返ったエルジュはユーフェリアと一緒に、氷の壁を作って炎を迎えた。

 炎は水蒸気を上げながら、縮小していくも前進を止めることなく、炎を溶かしながら突き進んでくる。

 二人は新たに氷の壁を作り、炎の速度を落としている間に部屋から逃げ出した。

 部屋に駆けつけた兵士は何が起こったのか分からなかった上に、かつ身内である二人を捕まえることはしなかった。

 しかし、すぐさまアンビーの怒声が響いた。

「二人を! ユーフェリアを捕まえるのよ!」

 この絶叫は宮殿内をひたすらに走る二人の耳にも届いた。

 エルジュとユーフェリアはハァハァと息を切らしながら走り続けた。その間にエルジュはスマホでアンジュなどに連絡をする。

 黄金宮の外でも何かが起こっているらしかったが、何が起こっているのかを知る余裕はなく、自分たちの身に起きていることだけを簡潔に伝える。

 今では黄金宮内の兵士は二人を捕まえようと血眼で追いかけてくるのをなんとかかわす。

 エルジュは沈黙しながら走るユーフェリアに、

「私、人間界と妖精界が混ざり合った今の状態が嫌いじゃないです」

 一方の妖精王女は答えなかった。

 逃げている最中に通った部屋で、エルジュは変身の杖を手に入れ、

「私がユーフェリア様に変身をします。だから、その間にユーフェリア様は運命の力を使うなり好きなことをして下さい」

「一緒に逃げたほうが良くないかしら?」

 いつも無表情のユーフェリアが眉をひそめた。

「それだと二人で捕まっちゃうかもしれません。時間がありませんよ」

「私、神明壮へ急ぐわ。そこに行けば、黄金宮の財宝を一つか二つ渡すことを条件に出せば、誰かに助けてはもらえるでしょう。だから、それまで頑張ってちょうだい」

「はい。……あの、運命の力は使わないんですか?」

「そうね。本当に世界を破壊して、壊れていく世界に、さよなら世界って手を振るのも素敵よね。……冗談よ。蝶も自分の運命も自分の力で手に入れるから面白いのよ。だから、楽な手段は最後に取っておくことにしてるの。それじゃあ」

 二人は窓から黄金宮の庭に出て、二手に分かれた。

 エルジュは再び、どこかの部屋の窓から黄金宮内に戻り、ユーフェリアは庭の隅にある地下水路へと飛び込み、黄金宮の外へ出て、人間界にもっとも近い入り口である巴学園を目指した。

 

 アンジュは道端に転がっていた自転車にまたがり、焦った気持ちで村役場から真っ直ぐ黄金宮を目指していた。

 エルジュからスマホで連絡が来て、かなり危険な状態なのを知り、頭の中はエルジュでいっぱいとなってしまった。

 エルフは誰もが自身が強く執着するものを持っているが、アンジュとエルジュにとってそれはお互いだった。

 前から走って来た赤い外車が止まり、ミュウが降りてきて、走るアンジュの腕を掴んだ。

「ちょっと離してよ! 今、忙しいんだって!」

「待って下さい! 一人だけだと危険です!」

「うっさい!」

 車からサングラスにマスク姿のドロシーも降りてきて、

「送っていってあげればいいじゃない」

「本当!? 早く!」

 アンジュは自転車を乗り捨て、車へと乗り込む。

 二人も車に戻り、発進させる。

 アンジュはソワソワして気が気じゃない。

 ミュウが心配そうに、

「妖精界に潜伏している私たちは黄金宮が爆発したのを見て、神明壮に急ぐ途中だったんです」

「ふーん」

 ドロシーは警察に捕まってしまったら、大変なことになるため、少しの変装もしているがアンジュとしてはどうでもいいことだった。

 今、そのドロシーは護身用の小型拳銃を準備していた。

「何してるの?」

 アンジュの問いに、ドロシーは淡々と、

「手伝うわよ。この銃、小さいから殺傷力ほとんどないし。だから、よっぽど当たりどころが悪いか至近距離でもない限り大丈夫よ」

「ううん。私、一人で行く。こっちのほうこそ大丈夫だし余計なお世話だよ」

「……でも」

「大丈夫! 私は黄金宮の身内だし。だから、黄金宮の前で下ろしてくれるだけで大丈夫」

「本当に?」

「本当」

 アンジュはきっぱりとした口調で頷き、この時初めて、敵だらけとなってしまった黄金宮に乗り込むことに気付き、怖くなった。だが、すぐに単身乗り込む決意を固め、

「まあ、二人は世界が元通りになった時のためのお祝いの準備でもしてて」

 黄金宮の前で降りたアンジュは中にエルジュがいるはずだと信じながら、震える足を心の中で叱咤激励し、黄金宮の中へと単身突撃した。

 黄金宮内ではユーフェリアとエルジュを捕まえようとする一派と匿おうとする一派、面白おかしく事態を引っ掻き回す一派と便乗して暴れる一派と妖精界らしい混沌ぶりを発揮し、かつてはあった秩序らしいものはなくなっていた。

 アンジュも混乱の中、攻撃されたり攻撃したりしてなんとか進み、廊下を走るユーフェリアを見つけ、追い掛ける。

「待って! ユーフェリア様」

 その声に、ユーフェリアらしからぬオーバーな表情で振り向き、

「アンジュどうして!?」

「心配で来たんだよ。それより、エルジュは?」

「私がエルジュよ。今、ユーフェリア様に変身して掻き回してるの。逃げるユーフェリア様と途中で会わなかった?」

「会わなかった。きっと無事に逃げられたんだと思う。私たちも逃げよう」

「もう少しだけ。ユーフェリア様が神明壮に助けを呼びに行ったから、きっと来ると思う」

「そっか。それなら、私も一暴れしようかな」

 アンジュはそう言って、追い掛けてくる兵士やら暴漢やらに魔法で巨大な土塊を見舞った。

 

 

 神明壮では日本武道館行きを志願したり、していなかったりな有志たちが使えそうなものを漁っていた。何故だか他の住人はいない。

 神明壮はカオス級に物が多く、整理整頓も不十分。

 そのため、

「アハハハハ。何ここ天国!?」

 家事妖精ブラウニー阿仙が早速、本能に従い掃除を始め、日本武道館へ行くという予定を満面の笑みで踏み外そうとしていた。

「先輩! 掃除じゃなくて使えそうなものとか武道館に行くための道具探しですよ!」

 描磨がそう言いながら、阿仙から掃除道具を引っぺがす。

 無事、正気に戻った阿仙はデカイ刀などを発掘。

「銃器系はないのかなー。刀とかは使い方が分かんないし。せめて飛び道具が欲しいなー」

 ようやくのことで見つけたのは魔法の矢を打ち出すボーガンだった。

「これでいいや」

 台所ではサナが調理台で猫のまな板を見つけ、シエーラが冷蔵庫を開け、食べ出した。

「わー、この猫のまな板可愛いー」

「コレオイシー」

「二人とも今、それ違う」

 綺羅がサナとシエラを誘導する。

 時間がないのは分かっているが、自分への誘惑も我慢しない面々が揃っているため、少々、本題に行くまで手間取ってしまった。

 綺羅がボロの部屋に入ると、超高性能なパソコンが数台、魔術書の他にC言語やJAVAといったプログラミング関連の本がずらりと並んでいた。

 部屋の片隅のゴミ箱の中に無造作に捨てられていた左右一対の腕輪に目が止まった。それぞれの腕輪には三つの宝石がはめ込まれ、高価そうだし、魔法的な力を持っていそうだ。

 行儀は悪いが手に取った。

「今度会ったら、凪子先輩にでも聞いてみるか……」

 綺羅は他にめぼしいアイテムがないことを確認すると腕輪を手に持って、妖精界への入り口がある学園の方面へと向かった。

 その他の面々はアルケミの部屋から空飛ぶ箒やじゅうたんを調達し、旧江戸城にある日本武道館へと急いだ。

 阿仙が汚れたアパートを惜しんでいると、シエラが、

「先輩。日本武道館デボロヲ掃除出来ルッテ」

「いや、僕、そっち方面のスイーパーじゃないし」

「鞍替エシチャイナヨ」

 

さよせか第5回2 - さよなら世界第5回


 

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