さよせか第5回3

 一方、他のメンバーたちは空飛ぶ箒やじゅうたんといったファンタジックアイテムで日本武道館の前へ。

「やっぱり空は早いな……」

 一時間ほどで来れてしまった。

 入り口には鍵が掛けられている。

「どうしましょう。裏口を探したほうがいいんでしょうか?」

 のんびりとしたサナの言葉に、阿仙が冷静に、

「裏口も鍵掛かってるって。誰か壊してよ」

「任セテ!」

 シエーラがそう言って、魔法で岩を発生させ、入り口にぶつける。

「ついでに、監視カメラも壊せ」

 器物破損か何かでの逮捕を憂い、高校教師エレンが生徒に証拠隠滅のための破壊を指示するが、自らの手は決して汚そうとしない。

 扉を破壊した瞬間、警報音が鳴る。

「行くぞ!」

「でも、武道館のどこにいるんでしょう?」

 戸惑う描磨の疑問に、シエーラが言った。

サライ歌ウンダカラ、ステージシカナイッテ!」

サライの歌詞分かんないです」

 サナが不安そうにしているが、多分、そこら辺は大丈夫。

 会場の方からぬいぐるみや黒い影がわらわらと湧いてきて、進路を妨害するように立ち塞がる。

 最初は子どもが抱きしめて可愛がるのに丁度いいサイズだったぬいぐるみもにゅきにゅきと巨大化し、笑顔なのに敵意が溢れているようにしか見えない。

 シエーラが風の刃でぬいぐるみを切り刻み、描磨が魔法で強化し自律行動型からくりをけしかける。

 黒い影が体を変形させ、サナに巻き付き、振り回す。

「キャー!」

 サナは涙目になりながら、持っていたモップを闇雲に叩きつける。

「サナさん!」

 描磨が影をからくりで破壊するが数が多く、先が思いやられる。

「ありがとうございました」

「いいえ。もっと時間があればたくさんからくりを作れたんですけど……」

 サナのお礼に描磨は少し困ったように言った。

 ふざけた造形をしている敵の数の多さに阿仙がポツリと、

「これさ……、ステージに行くよりボロが世界作るほうが早いんじゃない?」

「アホなこと言うなよ! シエーラと描磨の無双でこっちは行くんだよ!」

 エレンが完全に他力本願の中、阿仙は、

「やってらんねー」

 嫌気が差したように言うと背を向け、一人別行動とばかりに去っていった。

「危ないぞ!」

「大丈夫だよ。だって、会場へのルート以外は化け物少ないし」

 シエーラと描磨が会場への道を切り開き、ようやく通路を抜け会場へ雪崩れ込む。

 ステージの上には黒い機械とソファに座っている莉子、黒い機械の修理が終了し終わったボロがいた。

 一同に気付いたボロが、

「なんだ、諸君らは新世界創造に立ち会いたい観衆か」

「んなわけねーだろ!」エレンが怒鳴る。

「つまり、場を盛り上げようと小生に対する噛ませな負け犬ポジションに収まりに来たというわけか! この善良民め! 感謝するぞ!」

「テメー頭、沸き過ぎだろうが! 莉子逃げろ!」

 客席に座っていたぬいぐるみたちと影が座っており、一同が会場に入るとそれらが立ち上がり、振り向き、こちらに向かってきた。

 莉子は立ち上がろうとしたが、その時、座っているソファから拘束具が飛び出し、莉子の体を締め付け、拘束した。

「これって……」

「ふむ。莉子にそこを動かれると困るのでな」

 ボロは不穏当な笑みで、ステージへの道を切り開こうと暴れる一同を見下げた。

「アルケミがいないのはそういう訳か。友情に負け、エレン君に後事を託すとは。随分としょぼい本能ではないか。随分と狭小な精神の持ち主ではないか。随分と貧相な人脈ではないか! 彼女にはもっと期待していたのだがな」

「うっせー! 俺を貧相な人脈扱いすんじゃねー! 欲望より友情を優先して何が悪いんだよ! それが普通だっつーの!」

 エレンの怒鳴り声もボロにとっては馬耳東風であり、涼しい顔で聞き流している。

「早く新世界を作らねばな」

 ボロはパソコンのキーボードに何かを打ち込み始めた。

 風の刃でぬいぐるみやら影やらを切り刻むシエーラがステージに迫るが、ボロがキーボードを打つ片手間で魔法を発動し、シエーラを吹き飛ばす。

「ウワッ!」

「シエーラさん!」

 床に転がるシエーラにサナが駆けよる。

「大丈夫! 世界ヲ元ニ戻シテ、世界ガ離レナイヨウニシテ、皆ト仲良ク暮ラスンダカラ」

 サナが鳥かご型の魔法道具を取り出した。

「ボロさんにはお仕置きです! えい!」

 発動しようとするも、ボロが魔法で魔法道具の効果を消してしまう。

「対象を閉じ込める魔法道具だな。その程度、小生にとってはおもちゃであるぞ?」

「うひゃ」

 自ら手を汚そうとはしない他力本願エレンは気が遠くなりそうな思いで、

「この調子で莉子に槍刺せるのか……」

 一方のボロのほうは調子良くキーボードに打ち込んでいく。新世界創造はアルコールランプに火をつけるという小学生の実験と同じ軽いノリでしかない。

 ボロの表情は定年後、家庭菜園に生きがいを見い出した老人のように生き生きと輝いているが、こいつの野望が叶った暁に出来るのはおいしい野菜ではなく、ねじれまくった世界での新生活という鬱展開のみである。

 描磨のからくりも消耗が激しく、すでに戦闘は無理そう。

 ボロがエンターキーを押そうとした時、どこからか魔法で出来たと思われる光の矢が飛んできて、黒い機械に穴を開けた。

「!?」

 更に、魔法の矢が矢継ぎ早に飛んでくる。

 ボロを始め、一同が矢の方向である客席の上部を見ると、ライトを当てるための照明が置かれた専用の部屋である照明調光室から阿仙がボーガンを放っていた。

「それくらいの傷なら、なんとか魔法で修復可能ではあるがその前に懲らしめねばな」

 怒りで何故か笑い出したボロは、こめかみに血管を浮き上がらせながら、魔法で発生させた巨大で鋭い岩の刃を照明調光室へと突きさすように投げた。

 慌てて、逃げ出す阿仙。

「飛んで!」

 描磨は消耗が激しいからくりに命令を出し、岩の刃にぶつけ、岩刃の軌道をずらした。

 刃はえぐるような轟音を上げながら、壁へと深く突き刺さり、からくりもバラバラとなり、床に落ちる。

「次は貴様らの風通しをよくしてやろうではないか! 自分の臓物を風呂場で洗えるようになるぞ!」

 サナが岩の刃と壊れたからくり、ボロの笑いながら怒りにゾッとしながら、エレンに、

「先生、……頑張り、……ましょう……」

「……そ、そうだな。シエーラ、槍やるから、お前、行って来ないか? 同じエルフだろ?」

「嫌ダヨ。アイツ、強過ギ。デモ、手段ハアルカラ!」

「本当か!?」

 シエーラは瞬間、暴風を発生させ、エレンをステージの方向に吹き飛ばした。

「ギャァァァァァ」

 成年男性の野太い悲鳴と風で吹き飛ぶ客席の音が会場に響く。

 サナも描磨もあり得ない勢いの風に体を持っていかれそうになり、床に伏せてなんとか耐える。

 ボロも暴風を発生させ、二つの風が真正面からぶつかり、暴れ狂う風の中を、中学以来女が切れたことのない美形リア充成年男性がめちゃくちゃに振り回され、ボロボロになっていく。

「先生! 絶対ニ槍放シチャダメダカラネ! ソノママ莉子ノ所行ッテ!」

「無理無理無理無理無理!」

「させんぞ。ハハハハハ」

 エレンは槍を闇雲に動かすと、風が切れていくかのように掻き消えていく。

「魔法を壊す槍だから、魔法の風を切ったのか?」

 そのまま、槍を構えながら、ステージへと走り出す。

「厄介なものを……これもアルケミの差し金か」

 ボロが魔法を使おうとするが、照明調光室から移動してきた阿仙がステージ脇から魔法の矢を発射しまくり、妨害する。

 なんとかステージに上がったエレンは、拘束される莉子に向って、

「悪い!」

 全ての魔法が破壊されるという改造を受けたマシャリーニャの槍を突き立てた。

 槍は莉子の体を傷つけることはしないが、莉子は眼を見開き、驚きと衝撃を隠せない。

「……エレン君」

 瞬間、莉子の体は白い光に包まれた。

 光の中から出てきたのは莉子の面影を残すも莉子ではない女性だった。白銀のような金属製の胸鎧をつけ、腰には細身の剣を挿す戦士然とした容貌。長い金髪はウェーブしており、緑色の瞳は優しそうだった。

 ソファの拘束具も魔法の力か自然と外れた。

「……あんたが……エレイナなのか?」

「はい。私が運命の女神エレイナです。世界が大変なことになりましたね」

「そうなんだよ、直してくれ」

 シエーラが、

「ソレト、ドロシーノ運命ヲ修正シテ、二ツノ世界ガ離レナイヨウニシテ!」

運命の力さえ手に戻ればすぐにでも」

「小生の! 小生の計画がァァァァ!」

 ボロが悔しそうな表情でのたうちまわっている。普段、風呂にも入らず服も着替えないため、ふけやほこりや異臭が飛び散ってとても汚い。

 会場にやって来た阿仙はそれを見て、スイーパーとしての本能が刺激される。

「ボロ、まぁまぁ、落ち着いて下さい。新世界を作るチャンスがなくなったわけではありませんよ」

「ふむ。まあな。生きていればチャンスは巡ってこよう」

「復活早ーな」

 そこに、綺羅や凪子、ウィン、アンジュ、エルジュヘンテコ神、吉、ユーフェリアといった面々も合流。

 話を聞いたヘンテコ神は都合が悪そうな笑みで、

「まさか莉子がエレイナ様だったとは……。今までのご無礼をお許し下さい……」

「気にしないで下さい。それより途中から姿が見えなくなっていましたけど、どこかで借金してパチンコを?」

 ヘンテコ神は自業自得の推測とはいえ、凍りつき、黙りこんだ。

 吉が、

「お久し振りです。人間の姿をしていますが、ゼフィラスです。ユイは今まで妖精どもに封印されていたのです」

 アンビーを追い払い、神明壮に立ち寄った一同は鏡から出てきたヘンテコ神と鉢合わせをした次第である。

 凪子が不思議そうに、

「ユイ?」

「ワシの本名じゃ」

 エレイナは、

「とりあえず、世界を元に戻して、運命を修正しましょう。運命の力はどこ?」

「こちらに。ユフェ、こっち」

 ユーフェリアが前に出た。エレイナが手をかざすと、運命の力はユーフェリアの体からエレイナへと吸い込まれていった。

 エレイナの手の中に光が現れ、会場を飛び出し、世界全体を包み込んだ。

「終わりました。これで世界の異常とドロシーの運命は修正され、次は卵ですね」

 綺羅が吉とエレイナに、

「やっぱり帰るのか」

「当然じゃ、ワシも帰るぞ」

「いや、ヘンテコ神は別に帰ってもいいし」

「え? なんじゃ、その温度差」

「っていうか、それが総意じゃないの?」

 ユーフェリアが追い打ちを掛ける。

 吉は卵バックからヒビが入っている卵を取り出す。

「もう間もなく生まれるでしょう。……綺羅君、これ外してくれないかな?」

 腕輪を外すように催促し、その腕輪を見たエレイナが何かを察し、

「ゼフィラス。この期に及んで、不意打ちをしてユイを神界に行けないようにするとか考えてはいませんよね? あなたや私が何をしても神界の運命はもう変えられませんよ? ユイが神界に戻ることも決定事項ですし、これにより神界に永遠の平和が訪れるのです」

「あなたの予言はユイが神界統一をすると解釈をされているのです」

「いいじゃありませんか、それでも」

 サナが、

「鳥に乗って世界を超えるんなら、外に行ったほうが」

「大丈夫。空間とか次元そのものを超えてしまいますから」

「ワクワクするのー。ワシが神界の者どもを縦横無尽に蹂躙する時がとうとう来たのじゃな!」

「エレイナ様! こんな奴を!」

「ユイも若い頃は散々でしたから、復讐が始まるのも仕方ないですね」

 神界の、自分が仕える神を案じ、エレイナに詰め寄る吉と涼しい顔のエレイナ。

 卵の殻が割れ、中から光が飛び出してきた。

 光は巨大な金色の鳥となった。とても大人しく背中に乗るのを待っているようだった。恐らく卵の中にいる時から、散々色々と話を聞かされていたのだろう。

 ヘンテコ神は自信に満ちた表情で、鳥の背に乗り込み、エレイナと腕輪を外してもらえない吉が続く。

 吉は人間の体で世界を超えることに不安を持っているらしい。

 三人が乗り込んだ時、S・バードは飛び上がったと同時に、エレイナが吉の首根っこを掴み、飛び降り、運命の力をヘンテコ神に投げた。

「私、しばらくこっちの世界で莉子をやるからあとはよろしくねー」

「詐欺じゃ! 詐欺じゃ!」

「あわわわわわ」

 吉はもう言葉が出てこない。

 喜んだのは凪子である。

「やったー! 神と神族が身近にいるなんて!」

 妖精研究をしつつ、神族や神研究も出来ると大喜び。

 吉はもう当分は帰るチャンスがないと落ち込んでいる。

 莉子の姿に戻ったエレイナに、吉が、

「いいんですか?」

「いいのよ、吉君。私が神界に戻っても誘拐か拉致されて、運命の力を無理やり使わされるしかないのだし。運命の力もヘンテコ神が持っていたほうが安全だわ」

 莉子は落ち込むボロの元に行き、

「ボロ、あまり落ち込まないで! 新世界くらいすぐに作れるわよ。吉君と私の魔力があるから! 新世界でいっぱいのお花畑を作りましょう!」

「!」

 絶句する吉。

 歓喜するボロ。

「もう帰っていいかしら?」

 飽きたユーフェリア。

 一同も頷き、さっさと帰ることにしたが、誰かが、「新宿に行きたいだの原宿に行きたいだの、エレン先生クレカ持ってますか?」と言い出したことにより、打ち上げを開催することに。

「あ。待って、皆」

 吉が早々に立ち去って行く一同を追い掛けていく。

 

さよせか第5回エピローグ春風 - さよなら世界第5回

 

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